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神戸地方裁判所 昭和56年(ワ)80号 判決

原告

和田米和

右訴訟代理人

中尾英夫

堅正憲一郎

被告

兵庫県

右代表者知事

坂井時忠

右訴訟代理人

松岡清人

右指定代理人

荒井義一

外三名

主文

一  被告は、原告に対し、金三一四〇万〇一九二円及びこれに対する昭和五六年一月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一本件事故の発生(請求原因1の事実)

原告が昭和三八年一二月一日生れで、昭和五五年四月当時三原高校二年に在学し、化学部員であつたこと、化学部が同月一七日の文化祭において紙ロケット発射実験をすることを計画していたこと、原告ら化学部員が同月一六日午後四時三〇分ころから、化学準備室においてその準備のため火薬を製造し、紙ロケットに詰めて発射実験をしたがいずれも失敗にに終つたこと、同日午後六時四五分ころ、原告が黒色火薬の入つたビーカーに赤リンを加えて混合したところ右火薬が爆発したことは、当事者間に争いがない。

〈証拠〉を総合すれば、次の事実を認めることができる。

原告ら化学部員の紙ロケット発射実験は、西洋紙を巻いて筒状にし粘着テープでとめ、一方の端をホッチキスでとめた直径約一センチメートル、長さ七ないし一〇センチメートルの紙ロケットに約五グラムの黒色火薬を詰め、これをスタンドに水平に固定した紙筒の発射台に入れ、導火線に点火して発射し数メートル程度飛ばすというものであつたこと、本件事故当日製造された黒色火薬は、硝酸カリウム四〇グラム、塩素酸カリウム一四二グラム、炭素一五グラム、硫黄一〇グラム、しよ糖四二グラム、二酸化マンガン一グラムを、原告ら化学部員六名がそれぞれ手分けして乳鉢でこまかくすりつぶし、これを原告が五〇〇cc入りのビーカーに入れ、金属性薬品さじでかきまぜて調合したもので、右合計の約二五〇グラムあつたこと(以下「本件火薬」という)、原告らにおいて、右火薬を詰め紙ロケット発射実験を五、六回試みたが、いずれも発射台で紙ロケットが燃えてしまうなどしてほとんど飛ばず失敗に終つたこと、同日午後六時四五分ころ、原告が、右実験に使用した残量の約二〇〇グラムの本件火薬の入つたビーカーに赤リン約六グラムを加え、これを左手に持ち、右手に持つた金属製薬品さじでかきまぜたところ、突然本件火薬が爆発したこと、右爆発により、原告は、左手関節切断、右示指腱断裂、左橈骨々折、顔面熱傷、顔面、頸部、胸部、腹部多発性刺創、左角膜裂傷、両側外傷性鼓膜穿孔等の傷害を被つたほか、化学部員の久留米秀行が左眼球破裂、外傷性鼓膜穿孔等の傷害、同部員の江本哲が両側外傷性鼓膜穿孔、両角膜ビラン、外傷性虹彩炎等の傷害、同校教諭木下弘彦が鼓膜外傷等の傷害、同池沢正二が内耳外傷等の傷害をそれぞれ被つたこと、以上の事実が認められ、〈証拠判断略〉、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二本件事故の原因(請求原因2の事実)

黒色火薬に赤リンを加え、衝撃を与えると爆発する危険性があることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、原告らが製造した本件火薬は、黒色火薬(硝酸カリウム、炭素、硫黄)に塩素酸カリウムとしよ糖を加えたものであるから、黒色火薬と塩素酸カリウム爆薬(塩素酸カリウム、炭素、硫黄、しよ糖)の混合火薬であり、前記のような薬品の成分比であれば、非常に性能のよいものであること、赤リンを塩素酸カリウム爆薬に添加すると爆薬感度が極めて大きくなり、わずかな圧迫、まさつ、小打撃によつて急激な化学反応をおこし容易に爆発すること、したがつて、右のような性能の本件火薬と赤リンを調合する場合には、西洋紙の上で、ゆすつたり、鳥の羽根か紙片でまぜるなどの衝撃を加えない方法で調合をするべきであつたこと、原告が右火薬と赤リンをビーカーの中で金属性薬品さじを用いてかきまぜたため、その衝撃により本件火薬が爆発したものであること、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

三木下弘彦、池沢正二両教諭の過失(請求原因3の事実)

1  本件部活動に関する両教諭の注意義務

両教諭がいずれも化学担当であり、化学部の顧問であることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、化学部の活動は、移行措置(昭和五四年一〇月一日文部省告示第一五三号)によつて本件事故当時実施されていた指導要領の第一章第四款三にいわゆる特別教育活動の一つとして規定されている「必修の」クラブ活動ではなく、「課外の」クラブ活動であるが、同時にそれは、右指導要領の第三章第三、三、(五)において、学校が右特別教育活動としての必修クラブ活動との関連を充分考慮して活発に実施されるようにすべきものと規定されているのであり、また、右課外クラブは、同校生徒会会則第四章において同校生徒会の組織として規定されていることが認められるのであるから、課外クラブ活動としての化学部の活動は、特別教育活動そのものではないとしても、これと密接に関連するものとして同校の特別教育活動の一環をなすものであり、同校の正規の教育活動に含まれるものというべきである。

そうすると、化学部顧問である両教諭には、同校の教育活動の一つである化学部の活動に関し、同部の活動が当然に予定している化学実験に内在する危険性に鑑み、その危険から化学部員である生徒の生命、身体の安全を保護すべき職務上の注意義務があるものというべきである。

そして、本件部活動のように火薬の製造を行なう場合には、方法を誤つて爆発した場合、原告ら化学部員の生命、身体に重大な危険を生じさせるものであるから、化学部顧問である両教諭としては、予め化学部員全員に対し、火薬についての一般的な性質、調合方法を教えるのはもちろん、特に本件火薬のような塩素酸カリウム爆薬と黒色火薬との混合火薬に赤リンを混合する場合には、わずかな衝撃で爆発する危険性があるのであるから、そのことを化学部員全員に周知徹底させ、調合方法についても、ビーカー内で多量の混合火薬と赤リンを金属製薬品さじで一度にまぜあわせるというような、圧迫、まさつの衝撃を与える極めて危険な方法は絶対にとつてはならず、必ず少量の混合火薬と赤リンを光沢紙の上で、静かにゆすつたり、鳥の羽根や紙片などで静かにまぜるなど衝撃を与えない方法で調合するよう具体的に指示し、使用する薬品類の薬品庫からの持ち出し及び使用量、分量比もその都度確認し、また調合には直接立会をし指示通りに調合がなされるよう指導、監督するなどして、本件部活動における原告ら化学部員の生命、身体の安全を保護すべき職務上の注意義務があつたものというべきである。

被告は、本件事故は必修のクラブ活動中ではなく、課外クラブ活動である本件部活動中に発生したものであり、高等学校の生徒はほぼ成人に近い判断能力を有しているのであるから、クラブ活動においても、小、中学生に対するのとは異なり、生徒の行動と結果を逐一監護すべき義務は負わないものであるところ、部活動はあくまで課外の生徒の自発的な活動であり、クラブ活動の場合以上に生徒の自主性を重んじるべきであるから、部活動の際の教諭の注意義務はクラブ活動の際に比しさらに軽減されるものというべきであり、したがつて本件部活動に際しても、両教諭は、常時化学準備室に在室し、化学部員から質問ないし指導要請等があればいつでもこれに応じ得る態勢をとつておれば足り、実験についても予め火薬の危険性及び調合の要領等をわかりやすく解説している実験用図書を参照するよう提供するなどしておけば足り、それ以上の注意義務を負わないものである旨主張する。

しかしながら、なるほど被告主張のとおりクラブ活動よりは部活動の方が生徒のより自主的な活動ではあるけれども、活動がより自主的になれば、その内容もより専門的な高度のものになるのが当然であるから、体育部では柔道、体操等、文化部では化学等それ自体危険を伴なう生徒活動においては、授業よりはクラブ活動、クラブ活動よりは部活動と生徒の自主性が増せば増すほど、その内容は技術的により高度のものになり、それに伴なつて本件部活動のようにこれに内在する危険もより大きいものとならざるを得ない。

したがつて、高等学校の生徒の判断能力が被告主張のようにほぼ成人に近いものとは必ずしもいい難いことを考えあわせると、化学その他危険の内在する生徒活動においては、部活動の場合の方がクラブ活動の場合よりも、危険がより大きい分だけ顧問教諭の注意義務もむしろより重くなるのが当然というべきであるから、被告の主張は採用しない。

2  両教諭の過失

〈証拠〉を総合すれば、次の事実を認めることができる。

両教諭は昭和五二年ころに化学部の活動として初めて火薬の噴射実験をした際には、当時の化学部員に対し、混合火薬の性質についての基礎知識を教え、紙の上で静かに上下に動かしてまぜる安全な調合方法を直接自らやつてみせるなどして実験を指導したほか、少量の塩素酸カリウムに赤リンを加え、これをかなづちで叩いて爆発させその威力を教えるなどの指導をしたこと、しかし両教諭は、その後は右部員らが事故を起こすことなく同種実験を繰り返していたことから、しだいに生徒まかせになつて、部員に自由に火薬を製造させ、同種実験をさせるようになり、また右の指導内容は先輩部員から新入の下級生部員に引き継がれるものと軽信し、原告ら翌年以降に入部した現化学部員に対しては、右のような火薬についての基礎知識、正しい調合方法、赤リンを混合したときの爆発の恐ろしさなどにつき何らの指導もしなかつたこと、昭和五三年秋ころから先輩化学部員が現在の紙ロケットを考案し、発射実験を試みるようになり、原告ら現化学部員が入学した昭和五四年四月の文化祭に初めてその発射実験を行ない、その後も化学部の活動として何回も同種実験を行なつたので、現化学部員もこれに参加して先輩部員から混合火薬の製造及び紙ロケット発射につき指導を受けたこと、しかし先輩部員らは、現化学部員に対し、単に混合火薬の成分の割合と調合方法を教えたのみで、前記のような基礎知識、赤リンを混合する場合の危険性などについては何ら教えなかつたばかりでなく、ビーカーの中で混合火薬を調合するという危険な方法を教えたこと、本件部活動に際しても、両教諭は、化学準備室に在室しながら、原告ら化学部員が火薬製造を始めるにあたり、混合火薬の性質についての基礎的な知識や安全な調合方法、赤リンを混合した場合の爆発の危険性などについて何らの指導もすることなく、文化祭への他の展示物の準備や他の部員の実験の指導及び教務関係の仕事の処理等に注意を奪われて、薬品の持ち出しも部員にまかせ、調合にも立会わず、薬品の成分割合及び使用量も確認せず、原告がすりつぶした薬品を全部ビーカーに入れ、金属製薬品さじで混合火薬を調合しているのも、同じ室内にいて気付かない筈がないのに危険な行為として中止させず放置したこと、しかも木下教諭は、原告が紙ロケット発射実験を数回試みていずれも失敗に終つた際、たまたま原告から五、六メートル離れたところに居合わせたが、他の化学部員から失敗の原因を質問されたのに答え、原告にも聞こえる状態で「火薬の粒子が小さいほど反応が早いからよく飛ぶ。赤リンを入れたらよく飛ぶ」旨暗に本件火薬に赤リンを混合するよう示唆したものと受け取れるような発言をしたこと、木下教諭は右発言をした後、原告ら化学部員に対し、混合火薬に赤リンを混合すれば爆発の危険が大きいこと及びもし混合する場合には、ビーカーの中で金属製薬品さじでまぜるような方法は絶対にしてはならず、必ず前記のような安全な調合方法をとらねばならない旨の注意、指導は何らすることなく、他の部員の他の実験のために必要な機械の修理等のため、間もなくその場を離れ、以後は本件事故に至るまで活動の行動につき全く注意を払わなかつたこと、原告は、木下教諭の右発言を自分に対する赤リンを混合した方が良い旨の指示と受け取つたが、なお数回そのまま発射実験をしたところ、すべて失敗に終り、また木下教諭に質問した化学部員からも赤リンを入れるように勧められたので、赤リンを混合した場合の爆発の危険性及びビーカーの中で金属製薬品さじで調合することが極めて危険な方法であることを知らないまま、薬品庫から赤リンを持ち出し、前記のとおり本件火薬の入つたビーカーの中に入れ金属製薬品さじでかきまぜたため、本件事故が発生したこと、以上の事実を認めることができ、〈証拠判断略〉、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、両教諭は本件部活動に関し、化学部顧問として原告ら化学部員の生命、身体の安全を保護すべき職務上の注意義務を全く怠つたものであり、特に木下教諭は、本件混合火薬に赤リンを混入するという極めて危険な行為を原告ら化学部員に示唆したものと受け取れるような発言をしておきながら、その後の指導監督を全く怠つたものであつて、重大な注意義務違反があつたものというべきである。

四被告の責任(請求原因4)

本件事故が兵庫県立三原高等学校の特別教育活動の一環をなす化学部の部活動の際に生じたものであること、右両教諭が当時同校教諭の地位にあつたこと、本件事故につき両教諭に過失があつたことは以上に認定のとおりである。

そして、国家賠償法一条にいわゆる公権力の行使は、国又は公共団体がその統治権に基づき優越的な意思の発動として行なう権力作用に限らず、広く非権力的作用(純然たる私経済作用及び営造物管理作用を除く)をも包含すると解すべきであるから、被告は同条に基づき原告が本件事故によつて被つた損害を賠償する責任がある。

五原告の被つた損害(請求原因5の事実)

1  逸失利益

前記証拠によれば、原告は本件事故当時満一六才の男子であつたこと、兄二人はいずれも大学に進学しており、原告自身も親も大学進学を強く望んでいるから、原告の大学進学は確実であること、原告は本件事故による受傷の治療のため長期入院したので、いわゆる留年一年を余儀なくされ、一年遅れて昭和五八年三月に同校を卒業したこと、原告は同年の大学入試を受験したが、第一、第二志望校が不合格だつたので、第三志望校は合格であつたが同校には進学せず、予備校に通学して昭和五九年の入試受験をめざしていること、したがつて原告が大学を卒業して就労を開始できるのは、現実には早くて二四才からになること、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

原告は、第一、第二志望校の受験に失敗したのも、本件事故による受傷の治療のための長期入院による学力低下等もつぱら本件事故に原因があるから、本件事故がなかつた場合の原告の就労開始時期は二二才とするべきである旨主張するが、本件全証拠によつても、右大学受験失敗が本件事故のためであるとは直ちに認めることができない。

したがつて、本件事故がなかつた場合、原告は二三才から六七才まで四四年間就労可能であつたものというべきである。

労働省の賃金構造基本統計調査報告によれば、昭和五五年のパートタイム労働者を除く、産業計、企業規模計、男子労働者、旧大・新大卒、二〇〜二四才の場合、毎月きまつて支給される金額が金一四万二一〇〇円、年間賞与その他の特別支給額が金二二万一六〇〇円であることは当裁判所に顕著であるから、原告は少くとも一年間に金一九二万六八〇〇円の収入を得られるものと認められる。

142,100円×12+221,600円=1,926,800円

運輸省自動車局長通達別表Ⅰ後遺障害等級表、別表Ⅱ労働能力喪失率表によれば、原告が本件事故により被つた左手関節切断の後遺障害は、後遺障害等級第五級4に該当し、その労働能力喪失率は七九パーセントであるから、中間利息を控除すると、原告の逸失利益の本件事故当時の現価は、金二九〇八万七六四一円となる。

1,926,800円×0.79×(24.9836−5.8743)=29,087,641円 (円未満切捨)

2  慰謝料

(一)  後遺障害に対する慰謝料

原告が右後遺障害によつて受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては、金五〇〇万円が相当と認める。

(二)  傷害による慰謝料

前記証拠によれば、原告は本件事故による受傷の治療のため、昭和五五年四月一六日から同年六月八日まで(五四日間)兵庫県立淡路病院に、同年八月一日から同年九月一〇日まで(四一日間)神鋼病院に、同年一〇月三日から翌五六年三月二七日まで(一七六日間)徳島大学付属病院にそれぞれ入院し(合計二七一日間)、昭和五六年四月から昭和五七年一二月末までは二週間に一回程度、昭和五八年一月からは一ケ月に一回程度、徳島大学付属病院に通院していること(実通院日数約五四回)が認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、右入、通院日数を勘案すれば、原告の本件事故による受傷についての慰謝料としては、金一五〇万円が相当と認める。

3  入院中の諸雑費

原告の入院期間は、右のとおり合計二七一日間であり、入院中の諸雑費は一日につき六〇〇円が相当と認めるから、入院中の諸雑費は、金一六万二六〇〇円となる。

六過失相殺(被告の主張と抗弁3)

原告が、本件事故の際、顧問の両教諭や他の化学部員に問いただすことをせず、また実験書を参照することもせずに赤リンをビーカーに入れた火薬と混合したとの事実については、原告は明らかに争わないから、民訴法一四〇条一項によりこれを自白したものとみなす。

そして、右事実及び前記認定の諸事実によれば、原告としても混合火薬に赤リンを混合したことはこれまでなかつたのであるから、混合する前に量と方法を両教諭に尋ねる位の慎重さはあつてしかるべきであつたというべきであり、本件事故発生については原告にも過失があつたものとみるべく、斟酌すべき過失割合は二〇パーセントと認めるのが相当である。

そうすると、前項の原告の被つた損害の認定額合計は、金三五七五万〇二四一円であるから、そこから二〇パーセントを控除すると、金二八六〇万〇一九二円となる。

七損害の填補

原告に対し、本件事故による受傷の治療費として、日本学校健康会から、昭和五八年八月までに合計金八七万五八八八円が支給されたとの事実については、原告は明らかに争わないから、民訴法一四〇条一項により、これを自白したものとみなす。

しかし、原告は、本訴においては前記のとおり逸失利益、慰謝料、入院諸雑費及び弁護士費用のみを請求しており、治療費については(おそらく填補済みのものとして)請求していないのであるから、治療費についての本件填補を本件の他の損害費目について認め、その費目から右填補額を控除することは、(おそらく二重控除となり)許されないものと解される。

したがつて、右抗弁は失当である。

八弁護士費用

原告が本訴の遂行を原告代理人弁護士に委任したことは、弁論の全趣旨によつて明らかであり、その費用としては、六項の過失相殺後の認定額の約一〇パーセントにあたる金二八〇万円が相当と認める。

九結論

そうすると、原告の本訴請求は、五項の原告の被つた損害の認定額合計金三五七五万〇二四一円から、六項の過失相殺による二〇パーセントを控除した残額金二八六〇万〇一九二円及び八項の弁護士費用認定額金二八〇万円の計金三一四〇万〇一九二円とこれに対する履行期の後である昭和五六年一月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 (山﨑杲)

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